コラム
イノベーションの舞台裏

Vol.3

まるで「魔法の絨毯」に乗ったかのよう車いすロボット movBot®Officeが働く現場を大きく変える

movBot® Office とは

━ movBot® Officeがどのようなものか教えていただけますか
会長 中村賢一

会長 中村賢一

中村賢一 (会長)

movBot® Officeは、歩行に困難を抱える方がオフィス環境で効率的に働けるように設計された革新的な車いすロボットです。従来の車いすでは難しかった動きが可能になったことで、下肢障がいを持つ方の雇用機会が大幅に広がります。特に働く現場で活用いただけるように movBot® シリーズの中で「Office」という名称になっています。

大きな特徴は4つです。

  1. 真横にも、斜めにも動く車いす
    movBot® Officeは、真横に、斜めに、しかも回転は、4つの車輪の中の範囲であれば何処でも中心軸として回転できます。
    まるで「魔法の絨毯」に乗っているかのように自由に移動ができます
  2. 手元で椅子を高くできる
    手元で座面の高さを最大80cm(身長約180cmの目線)まで上昇でき、従来の車いすでは難しかった「高い場所にある物を、見たり取る」ことができます
  3. 衝突防止機能
    従来の電動車椅子には、衝突防止がありませんが、movBot®シリーズは、標準装備をしています。
  4. 自動運転・自律走行
    「Office」の名前を付けましたが、大型商業施設や博物館などで、高い所のもを見る、取ることができることから、行きたいお店まで、フロアMAPを指さすだけで、歩行が辛くなった高齢者が自律機能で障害物を回避しながら移動できるようにしました。

皆さんも街で電動車いすを見かけることがあるかと思いますが、movBot® Officeは、さらにその先を行く次世代のロボット車いすと思っていただければわかりやすいと思います。

開発のきっかけ

━ 特徴については後ほどうかがわせていただきますが、movBot® Officeの開発のきっかけは何ですか?

中村賢一 (会長)

2021年の東京オリンピック・パラリンピックで車いすバスケットボールを観戦したことがきっかけです。もともと、私の先輩の奥さんが車いす生活を始めたことを機に、歩行に困難がある方でも制約なく移動できることを目指して movBot® シリーズの開発を進めていたのですが、車いすバスケットボールの選手たちの驚異的なスピードとパワーに本当に感銘を受けました。あれだけ素早く動きまわり、他の選手と衝突してまたダッシュする迫力に驚きました。

そこで、ふと考えたんです。車いすでこんなに走り回るすごい選手が車いすでできないことは何だろう…?と。そして、どんなに優れた選手でも「高い所のものを取る」ことは困難では…と思いました。そこで、歩行に困難がある方でも自由に動き回れ、高い所の物を取ることができる車いすを開発することに決めました。

━ なるほど、そういうきっかけで開発がスタートしたのですね。

特徴① 真横にも、斜めにも動く車いす

━ 次に、先ほど触れた movBot® Office の特徴について教えてください。まずは、真横にも、斜めにも動く車いすということですが。

中村賢一 (会長)

ひと言で言えば「全方向走行」なのですが、前後・真横・斜めにも、しかも回転は、4つの車輪の中の範囲であれば何処でも中心軸として回転できます。「普通の車いすでも左右に曲がれるし、方向転換もできるじゃないか」と思われるかもしれませんが、 movBot® Office はそのまま真横にスライドして移動できます。普通の車いすの場合、左側にあと10センチ寄りたいという時は一度バックをして左側に方向転換してから前進して左に寄るという動きが必要ですが、movBot® Office は左側(真横)に10センチにスライド移動していきます。
更に、斜めにも移動できます。
また回転(方向転換)するのも、普通の車いすは後輪を軸にして回ることになりますが、movBot® Officeは、右や左の前車輪を支点に、左右の前後車輪真ん中を支点に曲がれます。
Officeは、幅60㎝長さ89㎝なので、右に曲がる先の通路幅が60cmの時は、右前車輪を中心軸に曲がることができます。従来の後輪軸で曲がる車いすは、右に曲がる先の通路幅が89cm必要となります。走行する通路の幅に合わせて、曲がることができる唯一の車椅子です。

これは「メカナムホイール」という仕組みで実現しています。この動きにより、働く現場では「狭いスペースや混雑した場所でもスムーズに移動できる」という大きなメリットが生まれます。これまで働く現場で車いすを利用するにはどうしても広いスペースの確保が必要になっていましたが、従来のスペースでも車いすが利用できることになるわけですから、「魔法の絨毯」に乗っているかのようにあらゆる方向に自由に移動できます。

movBot® Office倉庫内の作業
━ 確かに、広いスペースを確保しなくても車いすが利用できるのだとしたら、これまで以上に多くの仕事場で車いすの方が活躍できると思います。

特徴② 手元で椅子を高くできる

━ 2つ目の特徴は、座面が高くなるということですね。

中村賢一 (会長)

座面昇降機能は、高さを調整することで利用者が高い所の物を簡単に取ることができる機能です。例えば、書棚の上段にある本を取ることや、オフィスの高い場所にある物品に手が届くようになります。昇降範囲は400mmから800mmで、身長約180cmの人の目線まで上昇すると思ってください。もちろん利用者自身で上下移動させられます。
自分の都合に合わせて高い所の物を自分で取ることができる、これがこれまでの車いすではできなかったことです。同時にこれは、歩行に困難がある方の就労環境に制限があったことを意味します。movBot® Office をご利用いただければ、横方向にスムーズに移動できるだけでなく高い所まで手が届くようになりますから、車いすを利用して働ける現場が大幅に広がります。
オフィスでのデスクワークはもちろんのことで、工場や倉庫でのピッキング作業や、店舗での接客や商品棚整理などを、下肢障害を持つ方が、作業することが可能になります。

movBot® Office倉庫内の作業
━ お話をうかがっていて思ったのですが、この movBot® Office は歩行に困難がある方の就労の場を広げるということだけでなく、むしろ、企業側が車いす利用者の働く環境が準備できるということになりますか?

中村賢一 (会長)

その通りです。
現在、障がいをお持ちで働いている方のうち、身体に障がいがある方の比率は約6.1%に過ぎません。残りの93%は知的障がいや精神障がいの方です。また、障がいをお持ちの方の多くは事務職が中心で、軽作業に従事している割合は16.1%にすぎません。

車椅子ロボットによる階段の上り下りの様子
実証実験の会場の様子
実証実験の会場の様子

これまで車いすの方を企業で雇用する場合には、オフィス内の通路を広くしたりするなどの整備が必要でした。さらに高い所の物を取ることができなかったので、お願する業務も限られたものにならざるを得ませんでした。
このように、歩行障がいのある方をスタッフに迎え入れるには企業側にそれなりのハードルがあったのですが、 movBot® Office により通路を広くする必要もなくなりますし、高い所の物を取る作業も業務に含めることができますので、そのハードルが一気に下がります。企業側が身体に障がいのある方を積極的に雇用できる環境が整うことになります。

━ なるほど、それで「Office」という名称がつけられているんですね。とても良くわかりました。

特徴③ 自動運転・自律走行 ~ オフィス内モビリティ

━ 3つ目のポイント、自動運転・自律走行について教えていただけますか。

movBot® Officeには、AIが搭載されており、障害物を避ける機能を持ち、オプションで設定された目的地まで自動で移動できる機能を持たすことができます。
DXと連携させることで、倉庫内を効率的に移動して高い棚の物をピッキングすることなどができます。
もちろん歩行が困難な方に向けた車いすロボットではあるのですが、車いすではなく「オフィス内モビリティ」と表現して頂きたい。

例えば、人が倉庫内の棚を複数個所歩いて部品や商品をピッキングして戻ってくるという業務はまだまだ多くの工場・倉庫でおこなわれていて、スタッフは一日に何キロも歩ています。
ここに自動運転・自律走行の movBot® Officeを利用すると、スタッフが歩くことなく棚から棚へと自動で移動するばかりか、棚の高さに合わせて自動でいすが上下できるので効率的なピッキング作業ができるようになります。
ヤフーショッピング等での小物の配送ピッキング作業は、従来の自動倉庫方法では、保管エリアが、人間によるピッキング作業の保管エリアより相当広いエリアが必要となります。
設備も大物に比べて、小さいがゆえに煩雑な設備となり設備コストも相当なものになります。
Officeを利用したピッキング作業は、歩行障害者の雇用につながり、しかも、設備費が安価で、広い倉庫も必要ありません。

さらに、大型商業施設で歩行が不自由なお客様用に設置していただくと、お客様は介助者がいなくても、高い棚の商品を自分で手に取ったりと、ひとりで自由に買い物を楽しむことができます。
自動運転の機能を活用すれば、フロアMAPを指さすだけで、目的店舗に行くことができるなど、高齢者にも優しい店舗内移動手段として、ご利用頂けます。
更に、展示会やイベントなどで自動運転で会場を、健常者目線で、巡るモビリティとしても利用ができます。

このように movBot® Office は、オフィス内モビリティという全く新しい側面も備えているんです。

movBot® Office
━ お話に驚きました。障がいのある方向けの車いすだけでなく、ビジネスのあらゆる場面で利用できるモビリティという可能性も持っているのですね。

movBot® シリーズが目指すもの

━ 最後に、movBot® Officeを通じて実現したいビジョンについてお聞かせください。

中村賢一 (会長)

movBot®シリーズ の開発において、私たちが重視しているのは「心と体の改善を目指す」という点です。誰もが「人の手を借りずに自分で動きたい」と思っているはずです。一方で、特に障がいを持つ方々は日常生活で介助が必要になる場面が多くあります。そうした必要性を減らし、ユニバーサルな生活ができる製品をどれだけ提供できるか、これが私たちの目標です。movBot®を通じて、誰もが自由に移動し、自分の能力を最大限に発揮できるwell-beingな社会を実現したいと考えています。そのために、今後も技術革新を続け、より良い製品を提供していきます。

━ 本日はありがとうございました

コラム一覧へ

ページトップへ