Vol.2
社長 中村光寿
戦後の高度成長期、日本全国で数多くの中層階団地が建設されました。これらの団地は、都市化と人口増加に対応するための重要な住宅供給策として位置づけられ、多くの家族が新生活をスタートさせました。しかし、築50年以上が経過した現在、多くの団地が課題を抱えています。例えば、経年による耐久性、建築当時の間取りが現在のライフスタイルと合わなくなってきている耐用性、基準変更にともなう耐震性などが指摘されています。特にエレベーターが設置されていないため、高齢化する住民にとっては外出が困難になるなどの課題が浮き彫りになっています。
当社は現在、「車椅子ロボットmovBot®(ムーボット)ACE-Stair」の開発を進めていますが、これを利用したサービスがこの課題を飛躍的に改善できると考えています。
近年の共同住宅の場合、低階層であっても建設当初からエレベーターが設置されているところがほとんどですが、1980年以前では、5階建てまでの共同住宅ではエレベーターを設置しないのが普通でした。これはコスト削減が理由ですが、当時、エレベーターがないことは住まわれる方にとっても苦になることではありませんでした。
それから数十年の月日が経ち、住まわれている方の高齢化とともに徐々に階段の上り下りが困難になり、4階や5階まで階段を上れない状態が生じてきてしまっています。特に高齢者にとって階段の上り下りが大きな負担となることで、「外出機会の喪失」が「社会的孤立」「健康状態の悪化」などに繋がるリスクが高まります。
このことは賃貸のエレベーターのない中層階段室型住宅では、4階、5階の賃貸契約が決まらずに空き部屋になってしまっているケースが多くなってきています。
そのため、家主は、4階5階をセットで賃貸するなど新しい取り組みも進められています。
参照 : “団地暮らしをもっと快適に” 4・5階セット貸しや階段ロボットも (NHK おはBiz)
今どきは3階建て程度でもエレベーターが設置されていますので、分譲の住宅では、貸すに貸せず、売るに売れない状況で、所有者が困惑している事態になっています。
賃貸物件を抱える国や地方自治体もこれらの中層階段室型住宅が抱えるエレベーター設置の課題に対して、一部設置に向けた環境整備を進めてきていました。
しかし、階段毎の設置に2~5千万円以上の費用が必要となることなどから、エレベーターの設置が現実的には厳しい状況が続いています。
また分譲の場合は、エレベーターの設置は共有部分の変更に該当するため居住者による管理組合での決議が必要であったり、所有者負担の費用が大きな課題となっており、エレベーターがないことの課題が認識されながらも、その対応が出来ないというのが現実です。
共同住宅へのエレベーターの設置状況(国土交通省の資料より)
エレベーターの種類 | 1基あたりの工事費 (百万円) | ||
---|---|---|---|
階段 室型 住棟 | 踊場着床型 | 15~18 | |
フロア着床 型 | バルコニー側 | 24~27 | |
階段室側 | 53 | ||
片廊下型住棟(フロア着床) | 20~26 | ||
設置後の保守・点検費用は含まない |
UR団地におけるエレベーター設置実績にもとづく工事費例(国道交通省の資料より)
このように、高度成長期に数多く建設され現在も多くの方が住んでいる中層階の共同住宅は、エレベーターがないがために生じる課題が深刻化しつつあります。
このような状況を打破するために、当社が開発を進めているのが「車椅子ロボット」です。この車椅子ロボットは、階段の上り下りをサポートする機能を持ち、高齢者や身体の不自由な人々の移動を支援します。具体的には、以下のような技術ポイントがあります。
車椅子ロボットは安全性を最優先に設計されています。カメラとAIを搭載しており、障害物を自動で検知し避けながら移動します。
例えば、階段の途中で障害物があった場合、ロボットはその情報をリアルタイムで認識し、安全に回避することができます。また、搭乗者の安全を確保するために、ロボットは速度を調整し、急な動きを避けるシステムとなっています。
住民が専用のカードを使ってロボットを呼び出すことで車椅子ロボットが利用できます。
カードリーダにカードをかざすだけでロボットが玄関前まで自動で移動し、住民を乗せて階段を昇降します。また、利用者が降りた後はロボットが自動で基地に戻り、次の利用に備えて充電を行います。このシステムにより、住民は外出の際の階段昇降の負担から解放され、より気軽に外出ができるようになります。
車椅子ロボットの実用化に向けた実証実験が、2024年2月に神奈川県相模原市の市営団地で行われました。実証実験には、相模原市の職員、公的住宅の供給事業者、同団地の住民の方々、TV・新聞社などの報道関係者など、60名程が参加してくださり、参加者が見守る中、車椅子ロボットは階段の昇り降りをしました。
車椅子ロボットによる階段の上り下りの様子
実証実験の会場の様子
参加された住民の方々の97%が、「エレベータのない階段に車椅子ロボットがあれば便利」と回答されました
この実証実験は、高齢化によって昭和の団地が抱える課題があることを新聞やテレビなど数多くのメディアでも取り上げ、社会的な意義があることをうかがえました。
加えて、階段の自動昇降を可能にする当社の革新的な技術への関心も集まり、普及が期待される実証実験となりました。
これまで、エレベーターがないことによる中層階段室型住宅の課題は、後付けでのエレベーター設置による解決が模索されてきました。しかし、後付けエレベーターの技術は整いながらもなかなか実現には至っていません。その大きな理由は、設置コストの問題です。
1棟に階段室が2~4室あり、最低コストでも、踊り場着床型で1500万円✕2~4室=3千万~6千万円が必要となります。
今回、当社が開発している車椅子ロボットは、エレベーターを設置するのに比べるとシェアリングシステムを含んで500万円と圧倒的な低コストで設置することができます。
更に、利用方法として、低額にて利用できるシェアリングシステムを導入することと、設置費用をリース契約することで、リース費用をシェアリングによる利用料金の徴収金からの支払いとすることにより、利用者負担で設置費用の回収もできます。
低額での設置費用と、設置費用の回収を考慮した車椅子ロボットmovBot®ACE-Stairは、階段昇降が困難になった高齢者や重たい荷物を運ぶ方、妊婦の方が、安心して各階の移動が可能になることで、この中層階段室型住宅の課題を解決します。
ここまで、エレベーターがない中層階段室型住宅での課題を解決するための車椅子ロボットという視点でご説明してきましたが、階段を自動昇降する車椅子ロボットの用途はそればかりではありません。
例えば、エレベーターが設置されている共同住宅でも、エレベーターの定期点検時の各階移動の手段としても利用が期待されています。定期点検によってエレベーターを利用停止せざるを得ない場合、住民の各階移動をスタッフが人力でサポートしていることがほとんどですが、これを車椅子ロボットで行うことができます。
また、駅や公共施設でのエレベーターの改修工事においても、工事期間中の各階移動をこの車椅子ロポットに担ってもらうことができます。
このように車椅子ロボットは、都度の状況に合わせて色々な場所に短期間でも利用できるという、非常に柔軟性の高いシステムでもあります。
エレベーターのない中層階段室型住宅の課題は、高齢化とともに、これから問題が大きく表面化します。
当社の車椅子ロボットは、解決できず20年余り放置された問題を、解決する手段です。我々スタッフ一同、一刻も早く皆様にお届け出来るよう研究開発を進めています。
車椅子ロボットの導入は、高齢者が安心して住み続けられる環境を提供するだけでなく、敷地面積を広くとった住環境の良い共同住宅の魅力を向上させる大きな一歩となります。
また、この技術によって、多くの高齢者が行動的で健康的な生活を送ることができる社会が実現することを望んでいます。
ぜひ、皆様には、全国の昭和の生まれの団地でこのような深刻な課題があるということ、当社がその課題に対して独自の技術で取り組んでいることを知っていただきたいと思います。
そして、この車椅子ロボットの開発やサービスの普及に、ぜひ力をお貸しいただきたいと思います。